アメリカ政治外交のアナトミー
 
山本吉宣・武田興欣 編

冷戦後「唯一の超大国」となったアメリカをわれわれはどう理解すればよいのか。国際システム、二国間関係、国内政治過程に注目し、政治学者、国際法学者、地域研究者が複雑なアメリカの政治外交を解剖する書(アナトミー)(2006.12)
定価(本体3,400円+税)  amazonで購入
ISBN4-87791-165-0 C1031

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はしがき     山本吉宣・武田興欣  3

 第T部 国際システムにおけるアメリカ

第1章 国際政治におけるアメリカの位置……山本吉宣 17
     ――アメリカ 『帝国』 をめぐって
      はじめに 17
 第1節 「帝国」の顕在化のサイクル――アメリカの行動 18
 第2節 構造としての帝国 27
 第3節 アメリカへの対応 33
      おわりに 35

第2章 不安の「帝国」アメリカの悩める安全保障……土山實男 41
     ――9.11以後
 第1節 9.11の衝撃 41
 第2節 米外交・安全保障の三つのアプローチ 44
 第3節 9.11と米国の外交・安全保障政策 49
 第4節 セキュリティ・パラドックスのアメリカ 59
 第5節 米国の安全保障戦略のディレンマ 60
      むすびにかえて 62

第3章 国際法上の人道的干渉とアメリカ……柘山堯司 67
      はじめに 67
 第1節 国際法上の人道的干渉 67
 第2節 アメリカの対外軍事干渉 69
 第3節 集団的介入の法理 73
 第4節 アメリカの対外軍事政策 81

第4章 アメリカと国連……青井千由紀 89
     ――多角主義の今後
      はじめに 89
 第1節 国連、 多角主義と米国 91
 第2節 米国の国連から他者の国連へ? 93
 第3節 一極構造 97
 第4節 国内政治――例外主義の対国連政策への影響 100
 第5節 組織論からの視点――米軍組織文化の影響 104
      結論 109

第5章 アメリカと世界経済……飯田敬輔 115
     ――貿易と金融を中心に
      はじめに 115
 第1節 影響力の源泉 117
 第2節 三つのアプローチ 119
 第3節 事例研究――ドーハ・ラウンドとアメリカ 122
 第4節 アメリカと国際金融 126
      まとめ 128

 第U部 アメリカと主要国・地域
      ――アンビバレンスの動態

第6章 中国から見たアメリカ……高木誠一郎 135
     ――冷戦後におけるアンビバレンスの構造
      はじめに 135
 第1節 歴史的背景――「美しさ」と「帝国主義」 135
 第2節 冷戦後の中国にとっての米国 143
      むすび 156

第7章 ロシア人のアメリカ観と米露関係……袴田茂樹 161
      はじめに 161
 第1節 ソ連共産党のイデオロギーとアメリカ 162
 第2節 ヤルタ会談のスターリンとルーズベルト 164
 第3節 1960−1970年代ロシア民衆のアメリカ認識 168
 第4節 ゴルバチョフ時代からプーチン時代へ 176

第8章 ASEANとアメリカ・中国・多国間外交……菊池 努 183
     ――パワー、 価値、 アイデンティティ
      はじめに 183
 第1節 分析の視点 185
 第2節 ASEANとアメリカ・中国 192
 第3節 エンゲージメント、 ソフト・バランシング、 リスク・ヘッジング 198
 第4節 ASEAN+X――ASEANを中心とした東アジアの制度形成 202
      結びに代えて 206

 第V部 アメリカの国内政治過程と国際関係

第9章 アメリカの環境政策をめぐる政治……太田 宏 213
      はじめに 213
 第1節 米国における自然環境保護の伝統――国立公園をめぐる自然保護
      と開発 216
 第2節 現代の米国の環境政策をめぐる政治 228
      おわりに 241

第10章 アメリカと移民……武田興欣 251
      ――連邦議会の政策を中心に
      はじめに 251
 第1節 アメリカの移民政策の歴史 252
 第2節 アメリカの移民政策に影響を与えてきた要因 262
      まとめ 270

第11章 アメリカにおける保守主義運動の持久力とその限界……中山俊宏 277
      はじめに 277
 第1節 保守主義運動の台頭 278
 第2節 政治的記憶の共有 282
 第3節 二つの声明――権力イメージの比較 287
      おわりに 292

 第W部 日米関係

第12章 ディスコースとしての日米同盟……押村 高 301
      ――日本における安全保障とナショナルプライドの相克
      はじめに 301
 第1節 はじめに占領ありき 303
 第2節 自主防衛という理想と戦争嫌いという現実 305
 第3節 番犬か、 それともカウンターバランスか 307
 第4節 巻き込まれないように、 見捨てられないように 310
 第5節 アメリカにとって「守り甲斐のある国家」であり続けるために 311
 第6節 主体性の確立とは何か 313
      おわりに 315

あとがき     武田興欣・山本吉宣 321
索  引 325



[編者紹介]

山本吉宣(やまもと・よしのぶ)
ミシガン大学大学院博士課程修了(Ph.D.)、 青山学院大学国際政治経済学部教授(専門・国際政治学)。
主要業績: 『アクセス安全保障論』(共編、 日本経済評論社、 2005年)『アジア太平洋の安全保障とアメリカ』(編、 彩流社、 2005年)など [第1章担当]。

武田興欣(たけだ・おきよし)
プリンストン大学大学院政治学部博士課程修了(Ph.D.)、 青山学院大学国際政治経済学部助教授(専門・現代アメリカ論、 政治学方法論)。
主要業績:Bill Passage in the United States House of Representatives(Ph.D. dissertation, Princeton University, 2000), 『現代アメリカの政治』(共著、 弘文堂、 2005年)など [第10章担当]。

[執筆者紹介、 担当章順]

第2章
土山實男(つちやま・じつお)
メリーランド州立大学大学院博士課程修了(Ph.D.)、 青山学院大学国際政治経済学部教授(専門・国際政治学・安全保障)・同学部長。
主要業績:『安全保障の国際政治学―焦りと傲り』(有斐閣、 2004年)、 Japan in the International System(共編、 Lynne Rienner、 近刊)など。

第3章
柘山堯司(つげやま・たかし)
青山学院大学法学研究科博士課程単位取得済退学(法学修士)、 青山学院大学国際政治経済学部教授(専門・国際法)。
主要業績: 『PKO法理論序説』(北樹出版、 1995年)、 『現代アメリカの経済政策と外交政策』(共著、 三省堂、 1999年)。

第4章
青井千由紀(あおい・ちゆき)
コロンビア大学大学院博士課程修了(Ph.D.)、 青山学院大学国際政治経済学部助教授(専門・国際政治学)。
主要業績:「『平和活動』(ピースオペレーション)の理論と現実」『国際問題』(日本国際問題研究所、 2005年10月、 第548号)18-34頁、 『国際人権法と人道法の交叉―アジア・太平洋人権レヴュー2005』 アジア・太平洋人権情報センター編(2005年6月、 共編)など。

第5章
飯田敬輔(いいだ・けいすけ)
ハーバード大学大学院博士課程修了(Ph.D.)、 青山学院大学国際政治経済学部教授(専門・国際政治学、 国際政治経済論)
主要業績:International Monetary Cooperation among the United States, Japan, and Germany(Kluwer, 1999), Legalization and Japan: The Politics of WTO Dispute Settlement(Cameron May, 2006)

第6章
高木誠一郎(たかぎ・せいいちろう)
スタンフォード大学大学院博士課程修了(Ph.D.)、 青山学院大学国際政治経済学部教授(専門・中国研究)。
主要業績: 『南アジアの安全保障』(共著、 日本評論社、 2005年)[第4章担当]、 『冷戦後の米中関係―構造と動態』(編著、 日本国際問題研究所、 近刊)[第1章担当] など。

第7章
袴田茂樹(はかまだ・しげき)
モスクワ大学大学院修了、 東京大学国際関係論博士課程単位取得退学、 青山学院大学国際政治経済学部教授(専門・現代ロシア論)。
主要業績: 『深層の社会主義』(筑摩書房、 1987年)、 『現代ロシアを読み解く』(筑摩書房、 2002年)など。

第8章
菊池 努(きくち・つとむ)
一橋大学大学院法学研究科博士課程修了(法学博士)、 青山学院大学国際政治経済学部教授(専攻・国際関係論、 現代アジア太平洋国際関係論)。
主要業績: 『APEC:アジア太平洋新秩序の模索』(日本国際問題研究所、 1995年)、 Competing for Integration(共著)、 New York: M. E. Sharpe など。

第9章
太田 宏(おおた・ひろし)
コロンビア大学大学院政治学部博士課程修了(Ph.D.)、 青山学院大学国際政治経済学部教授(専門・国際関係論、 国際環境政治)。
主要業績: 『持続可能な地球環境を未来へ―リオからヨハネスブルクまで』(共編著、 大学教育出版、 2003年)、「地球環境ガバナンスの現況と展望」『国際法外交雑誌』 第104巻第3号、 2005年(85-112頁)。

第11章
中山俊宏(なかやま・としひろ)
青山学院大学大学院国際政治経済学研究科博士課程修了(国際政治学博士)、 津田塾大学学芸学部国際関係学科助教授(専門・アメリカ政治・外交)。
主要業績: 『米国民主党』(共著、 日本国際問題研究所、 2005年)、 『帝国アメリカのイメージ』(共著、 早稲田大学出版部、 2004年)など。

第12章
押村 高(おしむら・たかし)
パリ第二大学大学院修了(DEA)、 早稲田大学大学院博士課程修了(政治学博士)、 青山学院大学国際政治経済学部教授(専門・国際政治哲学、 欧州地域研究)。
主要業績: 『帝国アメリカのイメージ』(編著、 早稲田大学出版部、 2004年)、 『21世紀ヨーロッパ学』(共編著、 ミネルヴァ書房、 2001年)など。



はしがき

 アメリカは、 冷戦後「唯一の超大国」と呼ばれるようになった。 この間、 アメリカの対外政策は、 必ずしも一貫したものではなかった。 ブッシュ(父)大統領(1989−93年)は、 冷戦を終焉させた大統領であり、 また、 湾岸戦争を指導し、 法の支配を基本とした新世界秩序を唱えた。 クリントン大統領(1993−2001年)は、 当初国連強化を唱え、 またソマリアなどでの国連の平和活動に熱心であった。 そして、 ソマリアでの失敗の後でも、 ボスニア問題、 さらにはコソボ問題で、 積極的な役割を果たした。 しかし、 クリントン政権の多角主義(multilateralism、 多国間主義ともいう――国連やNATOなどの多角的国際制度の枠内で行動すること)も、 90年代も末になると議会の保守化もあり、 色あせ、 安全保障の分野でも環境の分野でも、 単独的な色彩が濃くなる。 ブッシュ(子)政権(2001年−)は、 当初は、 現実主義的な対外関係を展開したが、 9.11事件後、 アフガニスタン攻撃、 そしてイラク戦争と、 単独主義、 軍事力の行使、 さらに非民主主義国の民主化など新しい政策を展開していく。 このようなアメリカをどのように理解したらよいのであろうか。 何がこのようなアメリカの政策の背後にあるのであろうか。 また、 このようなアメリカは、 国際システムのあり方にどのような影響を与えるのであろうか。
 本書は、 このような問題意識に答えるべく、 アメリカの政治外交をなるべく総体的、 包括的にとらえようとするものである。 もちろん、 限定された書き手また紙幅を考えた場合、 何らかの視点を設定することが必要である。 本書では三つの視点が設定される。 一つは、 いわゆる分析のレベルといわれるものである。 二つには、 問題領域や分野である。 そして、 三つには、 方法であり、 そこには学問分野や、 歴史(時間的な展開)が含まれる。
 まず、 第1の分析のレベルから考えよう。 本書においては、 三つの分析のレベルを考える。 まず一つは、 国際システムであり、 アメリカを見るとき、 われわれは、 国際システム全体の中にアメリカを置き、 そこでのアメリカの行動や役割を明らかにしようと思う。 これは、 アメリカの国際関係における全体像を把握する一つのよい視点であるといえる。 いま一つのレベルは、 アメリカと他の国々が展開する二国間関係である。 個別の二国間関係は、 それぞれ固有の歴史や問題があるとともに、 さまざまな二国間関係を比較することによって、 アメリカが展開する国際関係の特質を明らかにすることができよう。 本書では、 とくに相手国がどのようにアメリカをみているか、 を中心にこの問題を考えることにする。 三つ目のレベルは、 広く国内の政治としてくくられるものである。 それは、 行政府、 議会、 世論、 イデオロギーの分布と変化などが織り成す複雑な過程であり、 それ自身固有の論理を持つとともに、 二国間、 さらには国際システムにおけるアメリカの行動に大きな影響を及ぼすものである。 もちろん、 このように国際システム、 二国間関係、 国内の政治過程とレベルを分けることは多くの場合便宜的なものであり、 それら異なるレベルは、 互いに干渉し合って、 実際の現象が現れる。
 二つ目の問題領域については、 アメリカの政治外交を考える場合、 そこで取り扱わなければならない分野は無限に存在するといって過言ではない。 大まかに、 安全保障、 経済、 などと分けてみても、 それなりに意味はあるが、 実際問題としてみると、 安全保障の問題でも、 テロ、 大量破壊兵器、 他国が将来軍事大国になる懸念などさまざまな問題があり、 また経済問題でも、 貿易、 金融、 通貨など多様な問題を含む。 さらに、 環境問題、 人口問題、 移民の問題など重要な問題は枚挙に暇がない。 われわれは、 これらの問題をすべて取り扱うことは当然できない。 われわれが本書でおこなおうとしたことは、 安全保障、 世界経済、 環境、 移民、 思想などの限定された分野を取り上げ、 それを国際政治次元で、 アメリカがどのような政策を展開しているか、 あるいは(また)それらの問題をめぐって、 国内でいかなる政治過程が展開しているか、 を明らかにすることである。
 第3の学問分野(ディシプリン)に関しては、 アメリカの政治外交をとらえようとするとき、 政治学、 国際法、 歴史学、 経済学などのさまざまなディシプリンが使われる。 またどのような分析レベル、 問題領域を取り上げようと歴史的な展開、 経緯は欠いてはならないものであろう。 本書の筆者たちは、 学問的なディシプリンからいえば、 多くは政治学者であるが、 国際法、 地域研究を専門とするものもいる。 したがって、 本書の担当のテーマを論ずるにあたって、 当然、 各自の専門ディシプリンを基にした。 しかしながら、 他のディシプリンの人にもわかりやすい分析、 記述を心がけ、 またそれぞれのテーマにおいて、 歴史的な展開を程度の差はあれ、 明示的に取り込むことにした。
 以上、 要するに、 冒頭で述べた問題意識を共有しつつ、 それぞれのテーマに関して、 適切な分析レベルを設定し、 歴史的な経緯を明らかにしつつ、 現在の問題を明らかにしようとした。
 本書は、 四つの部から成り立つ。
 第T部(「国際システムにおけるアメリカ」)は、 国際システムにおけるアメリカの地位、 振る舞い、 を歴史的視点をも踏まえつつ、 いくつかの観点から明らかにする。 この部は、 以下四つの章からなる。 第1章(「国際政治におけるアメリカの位置――アメリカ「帝国」をめぐって」)においては、「帝国」という概念を軸にしつつ、 その意味するところ、 また限界が論じられ、 それを通してアメリカの国際政治上の位置づけが検討される。 第2章(「不安の「帝国」アメリカの悩める安全保障――9.11以後」)においては、 アメリカの外交のいくつかのアプローチを検討し、 9.11の後のアメリカの安全保障の問題を歴史的な展開の中で検討し、 新しい安全保障の問題、 とくにセキュリティ・パラドックスとよばれる、 安全保障を強化すればするほど安全が失われるという問題を明らかにしている。 第3章(「国際法上の人道的干渉とアメリカ」)は、 アメリカの対外政策における人道的干渉を歴史的に検討し、 それが一貫したものではなく、 さまざまな要因によって左右されることを明らかにする。 そして、 人道的干渉の客観性、 一貫性の必要性を論ずる。 第4章(「アメリカと国連――多角主義の今後」)は、 アメリカと国連との関係を、 歴史的に、 アメリカの多角主義の位置づけを出発点として考え、 当初から、 アメリカの国際主義(アメリカが国際場裏に関与すること)には、 単独主義と多角主義が存在したことを指摘し、 現在の状況を、 国際政治の構造(単極構造)、 アメリカの国内政治、 思想(アメリカ例外主義)、 組織レベルの要因などから検討する。 そして、 アメリカが多角主義についていかなるヴィジョンを作ることが出来るかが、 アメリカと国連の関係を考える鍵になると指摘する。 第5章(「アメリカと世界経済――貿易と金融を中心に」)は、 世界経済におけるアメリカの行動を、 単独主義、 二国間主義、 多国間主義という三つのアプローチの組み合わせととらえ、 また自由貿易、 自由経済を基にしたアメリカの価値とアメリカの行動・リーダーシップの淵源とあり方が検討される。 この部を通して、 アメリカが多角主義をとること(それに回帰すること)の重要性が論ぜられる傍ら、 単独主義をとる背景要因が明らかにされる。
 第U部(「アメリカと主要国・地域――アンビバレンスの動態」)は、 アメリカと中国、 ロシア、 ASEANという主要国・地域との関係を取り扱う。 そこで共通して明らかになることは、 アメリカに対するそれらの国・地域の態度や政策が、 両義的(アンビバレント)であり、 愛情と憎悪、 尊敬と畏怖、 依存と自立など相対立する要素が交じり合い、 またそれが、 時代的に変化するということである。 中国に関して言えば(第6章(「中国から見たアメリカ――冷戦後におけるアンビバレンスの構造」))、 アメリカは中国にとって、 美しく中国をサポートする国であるという認識と、 中国に脅威を与える帝国主義であるという認識とが、 時期をたがえて現れる。 また現在のことをいえば、 アメリカは中国の経済発展を促進する大きな要因であるとともに、 台湾問題などでは、 中国と利害を異にし、 また巨大な軍事力を背景にともすれば覇権主義的に振舞う超大国としてとらえる、 という二つのことが、 あざなえる縄のごとく現れる。 ロシア(ソ連)にとっても、 アメリカは、 敵対また対抗する相手であるだけでなく、 力強く、 経済的に発展した畏敬の対象であり続けた。 そして、 ときに敵対・対抗が表に出、 ときに敬愛と協力が前面に出る(第7章(「ロシア人のアメリカ観と米露関係」))。 ASEAN(第8章(「ASEANとアメリカ・中国・多国間外交――パワー、 価値、 アイデンティティ」))にとっても、 アメリカは、 アジアの安定のためになくてはならない存在であると同時に、 その支配に注意深く対抗しなければならない存在でもある。 ASEANは、 したがって、 アメリカ(そして中国)と関与政策を進めるとともに、 アメリカに過度に依存する危険を回避する(リスク・ヘッジの)政策、 さらには、 ソフト・バランシングの政策を展開する。 そして、 ASEANは、 国際的規範、 国内的な規範、 さらにアイデンティティにおいて、 自己変化し、 それによって、 アメリカや中国との関係も変化しつつあるのである。
 第V部(「アメリカの国内政治過程と国際関係」)は、 国際関係に大きな関連があるものの、 国内の政治過程に焦点を合わせて、 環境問題、 移民問題、 そして保守主義の運動に関する論考を収めている。 第9章(「アメリカの環境政策をめぐる政治」)は、 アメリカの環境問題への政策の展開を主として19世紀から現在に至るまで、 主に国内政治過程から検討しようとするものである。 この章では、 19世紀から20世紀の半ばにいたるアメリカ国内の自然環境保護政策に関して、 大統領、 行政機関そして議会などを巻き込んで展開された保存論と保全論の論争が、 アメリカの環境保護主義の原点をなしていることと、 この論争が「持続可能な開発」という現代の開発と環境保護論争に通じるものであると指摘している。 さらに、 産業型・都市型公害対策が本格化する1970年代以降の環境政策に関して、 経済成長と環境保護のどちらに重点をおくかをめぐって、 主に議会と行政府の間で繰り広げられる政治を明らかにしている。 そして、 経済成長をより重視する1980年代以降の共和党と環境保護により配慮する傾向のある民主党の立場との違いを明らかにし、 それがアメリカの国際的な環境政策に大きな影響を与えていることを示す。 第10章(「アメリカと移民――連邦議会の政策を中心に」)は、 移民の問題をとくに議会の移民政策に焦点を合わせて分析する。 そこでは、 19世紀の中国人排斥法、 20世紀前半の日本からの移民の制限、 また、「人種」がいかに定義されてきたかが明らかにされる。 さらには、 現在の移民政策に関して、 移民を歓迎する産業界、 反対する労働団体、 さらに議会の動き、 大統領の政策が検討される。 移民そして民族構成は、 アメリカの将来の外交政策や国際関係に大きな影響を与える可能性があり、 その意味では移民政策は、 アメリカの政治外交の将来にわたる基底を決めるものである。 第11章(「アメリカにおける保守主義運動の持久力とその限界」)は、 アメリカの保守主義の展開の分析である。 現在のアメリカは、 大いに保守化しているといわれ、 それは、 国内政策だけではなく、 アメリカの対外政策の展開の背景に存在するものである。 この章では、 アメリカの保守主義を大きな「物語」(ナラティブ)を作り出す運動としてとらえ、 持久力を持ったものとして描き出す。 そして、 保守主義は多様な潮流を含むものであり、 それをいかに融合し、 政治指導者を輩出していくかという戦略を持ったことが保守主義の真髄であるとされる。 保守主義は、 現在の共和党の基盤をなすが、 保守主義者は、 自分を共和党と呼ぶよりも保守主義者と呼び、 政策が合わなければ共和党大統領であっても、 それを躊躇なく批判する。
 第W部(「日米関係」)は、 日米関係を取り扱う。 この部は、 第U部で取り扱ったアメリカと主要国との二国間関係の一端を担うものであるが、 読者に第V部までの知識に基づいて、 日米関係を考えてもらうために、 別立てにし、 また最後においた。 日米関係もまた、 第U部でのべた、 愛憎、 利害、 等がない交ぜになったアンビバレントの要素を強く持つ。 第12章(「ディスコースとしての日米同盟――日本における安全保障とナショナルプライドの相克」)では、 日米関係が、 アメリカとの同盟に関して、「巻き込まれる危険」と「捨てられる危険」の両方を持ち、 ナショナルプライドと安全保障上の依存という二律背反、 という大きな問題を抱えることが、 戦後日本の論壇での議論(ディスコース)を通じて明らかにされる。 この本の読者が、 主体的に日米関係を考える必要性が大いに存在するゆえんを示している。

 本書は、 アメリカの政治外交をなるべく包括的にとらえ、 もって、 読者のアメリカ理解、 さらには国際関係一般、 日本の位置づけや政策に関して、 考える材料を提供しようとするものである。 われわれ筆者の中で、 アメリカ研究を専門とするものは少ない。 しかし、 それゆえに、 アメリカに関して、 さまざまな角度から考察することができたと考える。 読者にわれわれの意図の一端でも伝えることができたならば、 筆者たちの喜び、 これに勝るものはない。

 2006年8月
 山本吉宣・武田興欣 


あとがき

 本書はアメリカの政治外交について、 国際政治学者が中心になりながらも、 狭い意味での国際政治学の範囲を超えて、 多様な分析レベル、 問題領域、 ディシプリンから考察したものである。 本書の各章からは、 国際社会におけるアメリカの姿をとらえることが、 必ずしも単純ではないことが明らかになってくる。 例えば本書の第T部でみたように、 イラク戦争前後から、 アメリカを「帝国」と呼んで批判(あるいは擁護)するような論調が目につくようになったが、「帝国」という概念一つを取っても、 その言葉の意味やそれを考えるべき分析レベルも多岐に渡っている。 他方、 アメリカは第二次世界大戦後の世界で、 国際的な規範や体制を作ってきた世界のリーダー的存在だという表現がなされることもある。 しかしこのような表現があてはまる分野とそうでない分野がある。 国際経済の分野では、 自由貿易の旗振り役としてアメリカはGATT・WTOに深く関与してきたが、 国連との関係では多角主義は必ずしもアメリカの利益と常に合致するというわけではなく、 国連を軽視する傾向は現ブッシュ政権下、 とくに顕著になった。 さらに紛争時の「人道的干渉」も、 アメリカの政治的意図を抜きに一貫した法理のもとにおこなわれてきたとは言い難い。
 しかしながら「唯一の超大国」と言われるアメリカであっても、 世界各地で思いのままに軍事力や外交を行使できるわけではない。 本書の第U部で示されたように、 相手がロシア・中国であってもASEAN諸国であっても、 アメリカはそれぞれの国々が持つ伝統的なアメリカ観や、 地域の国際関係についての価値やアイデンティティなどの影響を受け、 またそれらに拘束されている。
 さらに、 環境・移民・政治運動といった、 アメリカが諸外国に影響を与えるような分野を見ても、 現在のブッシュ政権になってから突如としてアメリカが「保守化」したわけではない。 本書第V部の各章を見るまでもなく、 対外政策と国内政治が密接に関連しているこれらの分野でのアメリカの行動を理解するには、 アメリカ国内の政治勢力や社会・思想面での運動に目を向けることが重要なのはいうまでもない。 さらにアメリカ国内の状況といっても、 現在の状況だけでなく、 20世紀後半や、 場合によってはそれ以前からの経緯を把握しておくことが不可欠である。
 以上のような多面的アメリカ理解を前提にすると、 国際社会でアメリカの果たすべき役割や、 日本がアメリカとの関係でとるべき態度については、 はるかに多くの選択肢やニュアンスを持った戦略や方針が存在してもよいはずである。 しかし日本の論壇やメディアで活発に交わされる議論は、 アメリカの理解に関して一面的になってしまっている側面がある。 本書第W部を読むと、 日米同盟をめぐる戦後日本のディスコースが、 いかに自ら選択肢を狭めてきたかを痛感させられる。
 本書のもととなったのは、 青山学院大学国際政治経済学部国際政治学科の「入門セミナー」という授業である。「入門セミナー」では、 同学科専任教員が学部1年生向けに隔週で講演をおこない、 その間の週に少人数のクラス授業に分かれて講演内容についてディスカッションを持つという形式の教育を長年おこなってきている。 このようなことから、 本書に関して、 青山学院大学国際政治経済学部から教材作成補助の一部としての助成をいただいた。 また、 この入門セミナーからは、 先に、 天児慧・押村高・河野勝編 『アクセス国際関係論』(日本経済評論社、 2000年)という成果も刊行されている。
 「入門セミナー」の毎年の講演にあたっては、 単に各教員が自分の狭い専門や研究課題を紹介するだけに終わらないよう、 統一テーマが設定される。 2004年度の統一テーマは「アメリカ」であり、 本書の執筆者は自分の専門分野に関する知識を活かしてアメリカの諸側面を「解剖」する講演をおこなった。 しかしわれわれは本書を制作するにあたり、 単に講演録をテープ起こしし、 それに若干の手を加えるという、 類書に見られるような方針はとらなかった。
 本書は、 国際政治学やその隣接領域における最新の研究や議論が、 現在のアメリカを理解する上でどのような知見を提供しているかを、 学部学生も含めた幅広い読者にわかりやすく示すことを目的とした。 そのため講演をベースにしながらも、 本書は全体として学術論文としての体裁や文体を採用し、 各執筆者は実質的に新しい論文を一本書くこととなった。 さらに各執筆者は、 講演時から2006年夏現在までの国際情勢や学界動向の変化についてもアップデートした。 編者からは、 国際政治関連の学部に所属する1年生が読んでも理解できる内容になるよう、 専門用語には文中や注に解説をつけるよう要請し、 またわかりにくい文章や表現については同僚であっても遠慮なく細かいコメントを出し、 書き直しを依頼した。 その結果、 本書が国際政治を学ぶ読者の役に立つものになれば、 編者の望外の幸せである。
 なお本書の各論文は基本的には書き下ろしであるが、 以下の3章については一部既刊の論文と重複する内容がある。 転載を許可して下さった各出版社・関係者に感謝したい。

第6章「中国から見たアメリカ―冷戦後におけるアンビバレンスの構造」(高木誠一郎):「『美帝』 へのアンビバレンス」『アステイオン』(サントリー文化財団、 阪急コミュニケーションズから出版)63号(2005年11月)。

第9章「アメリカの環境政策をめぐる政治」(太田宏):「持続不可能な 『アメリカ文明』 ―地球気候変動とアメリカ社会のライフスタイル―」押村高編 『帝国アメリカのイメージ』(早稲田大学出版部、 2004年)。

第11章「アメリカにおける保守主義運動の持久力とその限界」(中山俊宏):「アメリカにおける保守主義運動の持久力とその限界」『国際情勢』(国際情勢研究会)76号(2006年2月)。

 しかしいずれの論文も、 本書掲載にあたっては新たな書き加えがあり、 旧原稿とは違ったものになっていることを記しておく。 また、 2004年度に青山学院大学国際政治経済学部の非常勤講師を務められ、 アメリカを専門とする中山俊宏氏には、 同年度の「入門セミナー」の講演を特別に依頼し、 お引き受け下さったことから、 本書にも原稿を執筆していただいた。
 本書の刊行にあたっては、 国際書院の石井彰社長および横田直文氏にお世話になった。 石井社長のご理解がなかったら、 本書は日の目を見ることがなかった。 心から感謝したい。

 2006年9月
 武田興欣・山本吉宣 

株式会社 国際書院 〒113-0033 東京都文京区本郷3-32-5 本郷ハイツ404                                                                                                                                                                                          пF03-5684-5803 fax:03-5684-2610 E-mail:kokusai@aa.bcom.ne.jp
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