破綻国家再建の理論と実践をつなぐ 『国家建設における民軍関係』 上杉勇司・青井千由紀 編 / 国際書院

国家建設における民軍関係 破綻国家再建の理論と実践をつなぐ

上杉勇司・青井千由紀 編

民軍関係の理論的考察をおこない、文民組織および軍事組織からの視点でみた民軍関係の課題を論じ行動指針を整理する。そのうえに立って民軍関係の課題に関する事例研究をおこなう。(2008.5)

定価 (本体3,400円+税)

ISBN978-4-87791-181-2 C1031

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目次

著者紹介

執筆者紹介 (執筆順、*は編者)

*上杉 勇司 (うえすぎ・ゆうじ) 序章、第1章(共著)、第2章、第16章
広島大学大学院国際協力研究科准教授。英国ケント大学で国際紛争分析学Ph.D.を取得。カンボジアや東ティモールにて日本政府代表国際選挙監視員として勤務した経験を持つ。 (特活) 沖縄平和協力センター副理事長も兼ねる。著書に『変わりゆく国連PKOと紛争解決: 平和創造と平和構築をつなぐ』 (明石書店、2004年)、編著に『国際平和活動における民軍関係の課題』 (IPSHU研究報告シリーズNo.38、2007年) などがある。
*青井 千由紀 (あおい・ちゆき) 第1章 (共著)、第3章
青山学院大学国際政治経済学部准教授。上智大学卒、マサチューセッツ工科大学修士 (政治学)、コロンビア大学博士 (Ph.D.)。国連難民高等弁務官事務所JPO、国連大学学術研究官を経て現職。主要出版物にUnintended Consequences of Peacekeeping Operations (United Nations University Press, 2007, co-editor with Cedric de Coning and Ramesh Thakur) などがある。
藤重 博美 (ふじしげ・ひろみ) 第4章
名古屋商科大学専任講師。ロンドン大学 (SOAS) で政治学Ph.D.取得。専門は、平和構築における治安回復・維持活動および日本の安全保障政策。日本国際問題研究所研究員などを経て現職。論文に、「平和構築と治安部門改革 (SSR)」、『国連研究』、 (2007年6月) などがある。
山本 慎一 (やまもと・しんいち) 第5章
大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程在籍。同大学大学院で国際公共政策修士号を取得。外務省・国際平和協力調査員として勤務し、国際平和活動に関する調査研究に従事した。論文に「国連安保理による『授権』行為の憲章上の位置づけに関する一考察―多機能化する多国籍軍型軍事活動を例として」『外務省調査月報』(2007年度No.2、2007年)などがある。
中満 泉 (なかみつ・いずみ) 第6章
一橋大学客員教授。米国ジョージタウン大学大学院修士号 (国際関係論)。国連難民高等弁務官事務所旧ユーゴ・サラエボ、モスタル事務所長、旧ユーゴ国連事務総長特別代表上級補佐官、事務総長室国連改革チームファースト・オフィサー、InternationalIDEA (国際民主化支援機構) 官房長、企画調整局長など歴任。共著に「国際協力を仕事として: 旧ユーゴの戦火の中で」 (弥生書房、1995年) などがある。
今井 千尋 (いまい・ちひろ) 第7章
東京外国語大学大学院地域文化研究科研究員。米国ピッツバーグ大学で国際公共政策学修士号取得。アフガニスタンで国際協力機構企画調査員や国際監視団員としてDDRに携わった経験を持つ。内閣府・国際平和協力研究員を経て現職。共同研究に『地方復興チーム (PRT) の国際比較に関する調査』 (2007年) がある。
長 有紀枝 (おさ・ゆきえ) 第8章
(特活) ジャパン・プラットフォーム代表理事。東京大学大学院にて博士号取得 (学術)。元 (特活) 難民を助ける会専務理事・事務局長。旧ユーゴ、アフガニスタン、チェチェン難民支援など紛争下の緊急人道支援活動や地雷廃絶キャンペーン、地雷対策に携わる。著書に『地雷問題ハンドブック』 (自由国民社、1997年)、論文に「人道援助におけるNGOの活動: その役割、限界と可能性」広島市立広島平和研究所編『人道危機と国際介入』 (有信堂、2003年) などがある。
小栁 順一 (こやなぎ・じゅんいち) 第9章
防衛大学校防衛学教育学群准教授。防衛大学校総合安全保障研究科で修士 (社会学) を取得。在バングラデシュ日本大使館の勤務期間中に、少数民族地区で大統領選挙・総選挙の監視員として勤務した経験を持つ。論文に「米軍のCMOの史的展開」『防衛学研究』 (第35号、2006年)、「緊急人道支援のディレンマと軍隊の役割」『防衛研究所紀要』 (第8巻第1号、2005年)、「自衛隊と災害NPOのパートナーシップ」『防衛研究所紀要』 (第5巻第3号、2003年) などがある。
吉崎 知典 (よしざき・とものり) 第10章
防衛研究所研究部第5研究室長。慶應義塾大学修士課程修了後、防衛研究所にて戦略理論、民軍協力の研究・教育を担当。この間、英ロンドン大学キングズ校戦争研究学部、米ハドソン研究所客員研究員を務め、現在、防衛研究所、自衛隊統幕学校と各幹部学校、上智大学、東京外国語大学大学院にて教鞭をとる。主な著作として『戦争-その抑制と展開』 (勁草書房、1997年)、『NSC 国家安全保障会議の研究』 (彩流社、近刊) がある。
Mark A. Blair (マーク・ブレア) 第11章
米国陸軍中佐 (米陸軍訓練・教義軍所属)。朝霞駐屯地の陸上自衛隊研究本部との連絡将校として勤務。米国トロイ州立大学にて国際関係学の修士号取得。アジア太平洋軍・在日米陸軍の民事 (Civil Affairs) 専門官、米陸軍第96民事大隊B中隊長を歴任。2006年に防衛研究所第53期一般課程を修了後、現職。
石原 直紀 (いしはら・なおき) 第12章
立命館大学国際関係学部教授。国際基督教大学大学院博士課程修了、コロンビア大学大学院留学。日本政府国連代表部専門調査員を経て国連に15年間勤務。その間1992年から1993年にかけて国連カンボジア暫定統治機構 (UNTAC) 広報官としてカンボジアに滞在。さらに、国連事務局でPKO予算を6年間担当。共著に『ニューフロンティア国際関係』 (東信堂、2006年)、論文に「国連平和維持活動と武力行使」『立命館国際研究18巻3号』などがある。
山田 満 (やまだ・みつる) 第13章
東洋英和女学院大学国際社会学部教授。神戸大学で論文博士号 (政治学) を取得。東南アジア各国でNGO、日本政府派遣の国際選挙監視活動に従事。国際協力機構の専門家派遣も経験。 (特活) インターバンド (前代表)、 (特活) LoRo SHIP代表を務める。著書に『「平和構築」とは何か』 (平凡社新書、2003年)、共編著に『新しい平和構築論』 (明石書店、2005年)、編著に『東ティモールを知るための50章』 (明石書店、2006年) などがある。
篠田 英朗 (しのだ・ひであき) 第14章
広島大学平和科学研究センター准教授。広島平和構築人材育成センター事務局長も務める。ロンドン大学 (LSE) で国際関係学Ph.D.を取得。イランやジブチで難民支援ボランティアに従事したり、国連カンボジア暫定統治機構 (UNTAC) 投票所責任者として勤務した経験も持つ。単著に『平和構築と法の支配』 (創文社、2003年) (大佛次郎論壇賞)、『国際社会の秩序』 (東京大学出版会、2007年)、Re-examining Sovereignty (Macmillan, 2000) などがある。
瀬谷 ルミ子 (せや・るみこ) 第15章
(特活) 日本紛争予防センター事務局長。英国ブラッドフォード大学で紛争解決学修士号取得。シエラレオネやコートジボワールの国連PKOにてDDR担当官、在アフガニスタン日本大使館にてDDR大使特別補佐官として従事。ルワンダ、インドネシア、アフガニスタンにて、日本政府・NGO派遣選挙監視員を務めた経験を持つ。共著に、『国際協力の現場から: 開発に携わる若き専門家たち』 (岩波ジュニア新書、2007年) などがある。

まえがき

あとがき

本書は、国際平和活動、人道支援や復興支援、国家建設といった場面での民軍関係について論じた日本語による初めての本格的な研究書である。本書のタイトルである 『国家建設における民軍関係』 について論じるうえで、現時点での日本におけるベスト・メンバーを執筆陣に迎えることができた。本書の特徴は、単なる事例紹介に留まるのではなく、民軍関係についての理論的な考察を重視した点である。本書は、民軍関係についての理論と実践をつなぐという問題関心にそって書き進められ、最終的には新しい理論的課題を提起することを目指した。

国際平和活動、人道支援や復興支援、国家建設といった場面において、民軍関係は今後ますます重要になっていく。現実の要請が民軍調整や協力を必要としており、文民組織も軍事組織も、もはや互いにかかわりあうことを避けられない。9.11以後の新しい国際秩序形成の過程の中で、文民援助組織は新しい脅威に晒され、軍事組織は新しい任務を担うようになってきた。国際平和活動や人道・復興支援が展開される環境が大きく変化したのであり、民軍関係の行動指針については見直す必要が生じてきた。同時に、本書で焦点をあてた破綻国家の再建の文脈においては、従来の民軍関係の主役であった人道支援組織と軍事組織の関係だけでなく、非政府軍事組織や平和構築に取り組む開発援助機関といった新たなアクターとの関係を視野に入れる必要が生じている。

破綻国家の再建が成功するための鍵を握るのは、治安部門改革 (SSR) であることが、本書の分析を通じて明らかになった。正当性を持った治安部門を速やかに新生国家に構築することが、自立的な国家建設を新政府が担っていくうえで欠くことができない前提条件となる。新政府によって統治されることを国民が望む状態が生まれることで、新政府の正当性が高まる。したがって、国際社会の支援によって速やかに治安を確立し、人々の安全に寄与することは重要である反面、国際社会から押しつけられた傀儡政権といった印象を国民が抱かないように、意思決定や施策の実施の段階における現地政府の主体的な関与を確保していかなくてはならない。とりわけ、治安の確保は、その後の復興の礎になるだけに、破綻国家の再建過程における治安の確立のための民軍関係は今後の重要な課題となっていくであろう。

イラクやアフガニスタンでは、すでにその社会に根づいていた治安・司法組織を解体し、国際社会の価値観にもとづく新しい (現地にとっては異質の) 治安・司法組織をSSRと称して導入した。人々の日々の安全を保障することが、国家に求められるもっとも重要な役割であり、この分野では現地に根ざした治安維持・紛争解決システムを活用するようなSSRを進めていく必要がある。治安維持に必要な技術力を持った人材を、一から育成していくことは非常に時間がかかる。戦中は軍国主義や国粋主義に染まっていた日本の技術者、教員、警察官や各種行政機構なども、意識転換に成功すれば、終戦後は日本の戦後復興に欠くことができなかった技術力と組織を提供したように、人々が置かれた社会政治状況を変えることで、抵抗勢力になりかねない戦時中の治安組織を平和勢力として転換することが、SSRの即効性という要請と現地に根ざす必要性とのジレンマを解く鍵になる。このような観点から、破綻国家のSSRにおける民軍関係の課題に対応していくことは、今後の私たちに課せられた宿題である。

今ひとつの新しい理論的課題として、民間軍事会社のような非政府治安組織 (informal security providers) との民軍関係をどのように律していくべきか、という問題がある。この点は、今後の破綻国家再建の過程における民軍関係を考えるうえで、その重要性がますます高まっていくであろう。本書では、この点について十分な検討ができなかったが、本書で指摘したように、破綻国家の再建過程では、正規軍と国家警察の境界があいまいになるだけでなく、非政府の治安組織が治安の安定に関して重要な鍵を握っている。既存の民軍関係の指針は、正規軍や民間防衛資産といった国家の公式な機構として位置づけられている軍事組織との関係を前提としており、現実問題として顕在化しているグレーゾーンのアクターとの関係については適切な指針を出しえていない。この問題に正面から取り組まない限り、破綻国家の再建過程における民軍関係は混沌としたものとなり続けるであろう。

さらに指摘すれば、破綻国家内の各コミュニティが自衛のために創り出した非政府の治安組織を国際社会は支援していくべきなのだろうか、という難題に対する解答も見つけなくてはならない。破綻国家の中でも特定の村や地方といった限定的な領域では治安が維持されていることもある。それは国家に対してではなく特定のコミュニティに奉仕する非政府治安組織が特定の領域内で機能しているからである。国際社会は破綻国家のSSRを支援する際に、このような非政府の治安組織を支援することで治安が維持される領域を拡大すべきなのか。破綻国家におけるSSRには、人材、組織、財源といった国家建設に不可欠な要素が欠けている中で実施しなくてはならないといった難題がある。そのような状況下で、現地の一般の人々がもっとも必要とするものは物理的な安全と治安の向上である。現在の国家建設のアプローチでは、国軍や警察の再建を通じた中央政府の能力構築が優先課題として位置づけられている。だが、一般の人々にとっての安全を確保するという目的を達成するためには、中央政府が公共の秩序と治安を提供するのを待つのではなく、その地に住む人々の意向を最大に尊重したアプローチを優先していくことも必要になるだろう。その際に、非政府治安組織をどのように位置づけ、どのような関係を文民組織や軍事組織は築いていくべきなのか。この点も新しい民軍関係の理論的課題として指摘することができるだろう。

なお本書の編集過程で、国際書院の石井彰社長には、本書は「新国家の権力関係を論ずるうえで、きわめて貴重な理論的素材を提供する」や「歴史の歯車を大きく動かす仕事」であるといった多くの励ましの言葉いただいた。石井社長の強い後押しがなければ、本書がこのような形でまとめられることはなかったであろう。この場を借りて、お礼を申し上げたい。

2008年1月17日

執筆者・編者代表 上杉勇司

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