法文化(歴史・比較・情報)叢書 11 加害/被害

堅田剛

テーマの「加害/被害」の関係がなぜスラッシュなのか。公害事件など関係の逆転現象さえあるように見える事態がある。いま法的な責任の所在について足場を固める必要性を説く。(2013.5.1)

定価 (本体3,600円 + 税)

ISBN978-4-87791-247-5 C3032 215頁

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目次

著者紹介

(執筆順。*は編者)

*堅田剛(かただ・たけし)獨協大学法学部教授、法哲学

1950年生まれ。博士(法学)

主な研究業績: 『歴史法学研究――歴史と法と言語のトリアーデ』(日本評論社、1992)、『明治文化研究会と明治憲法――宮武外骨・尾佐竹猛・吉野作造』(御茶の水書房、2008)、『ヤーコプ・グリムとその時代――「三月前期」の法思想』(御茶の水書房、2009)、『独逸法学の受容過程――加藤弘之・穂積陳重・牧野英一』(御茶の水書房、2010)、E・ヴォールハウプター『詩人法律家』(編訳、御茶の水書房、2012)。

現在の関心: 近代ドイツの「詩人法律家」をめぐる法思想史、近代日本の法学形成史、法文化論の基礎理論等にある。

安部哲夫(あべ・てつお)獨協大学法学部教授、刑事政策

1951年生まれ。

主な研究業績: 『新版青少年保護法』(尚学社、2009)、『ファミリーバイオレンス(第2版)』(共著、尚学社、2010)、『ビギナーズ刑事政策(第2版)』(共編著、成文堂、2011)、「ドイツにおける被害者支援の現状」(『被害者学研究』2008)、「奈良県『子ども安全条例』制定後の状況と法的課題」(『法学新報』117巻7=8号、2-11)。

現在の関心: 青少年社会環境に対する法的対応の方向性と具体的課題、児童買春・児童ポルノへの刑事法的課題、受刑者処遇の意義づけや犯罪者の社会復帰へ向けた法制度の整備。

王雲海(おう・うんかい)一橋大学大学院法学研究科教授、刑事法・比較刑事法

1960年生まれ。法学博士

主な研究業績: 『死刑の比較研究―中国、米国、日本』(成文堂、2005)、『「権力社会」中国と「文化社会」日本』(集英社新書、2006。IPEX2006年度最優秀著書賞)、『日本の刑罰は重いか軽いか』(集英社新書、2008)、『監獄行刑的法理』(中国人民大学出版社、2010)、『賄賂はなぜ中国で死罪なのか』(国際書院、2013)。

現在の関心: 犯罪論体系の比較史、日・米・中の死刑改革など。

兒玉圭司(こだま・けいじ)舞鶴工業高等専門学校准教授、法制史・監獄法史

1977年生まれ。

主な研究業績: 「明治初期における監獄制度の一転機――既決囚の発見」(鈴木秀光ほか編『法の流通』慈学社出版、2009)、「「明治一四年監獄則」の編纂・制定過程に関する基本情報―国立公文書館所蔵『公文録』に収められる一草案を用いて」(『司法法制部季報』126号、2011)、「行刑制度調査委員会と山岡萬之助―大正期の監獄法改正準備作業に果たした役割」(『黌誌』7号、2012)。

現在の関心: 監獄法の成立過程における伝統法と西洋法の接合。

永松俊雄(ながまつ・としお)崇城大学教授、公共政策学・行政学・政治学

1955年生まれ。博士(公共政策学)

主な研究業績: 『チッソ支援の政策学――政府金融支援措置の軌跡』(成文堂、2007。日本地域学会著作賞、日本環境共生学会著述賞)、『環境被害のガバナンス―水俣から福島へ』(成文堂、2012)、「ローカル・マニフェストのリアリティ―地方政治変革の潮流」(『室蘭工業大学紀要』58号、2009)、「製作過程におけるフレーミング問題と行動選択に関する考察」(『室蘭工業大学紀要』60号、2011)、「福島原発事故における被害補償と社会受容」(『崇城大学紀要』37号、2012)。

現在の関心: 政策プロセス・マネジメントに関する実証的研究。

細谷孝(ほそや・たかし)中央大学兼任講師、生命倫理学・環境倫理学

1947年生まれ。

主な研究業績: 『水俣病の50年』(共著、海鳴社、2006)、「証言の構造」(『中央評論』256号、2006)、「子宮は環境か」(『中央評論』267号、2009)、「ボンヘファーにおける『代理者キリスト』の思想」(『神学研究』41号)、「ボンヘファーにおける『責任』の問題」(『神学研究』43号)、「ボンヘファー著『服従』における教会論」(『神学研究』44号)。

現在の関心: 水俣問題を中心とする生命倫理学および環境倫理学的研究。

堀口悦子(ほりぐち・えつこ)明治大学准教授、ジェンダー論

主な研究業績: 『Q&Aで学ぶ女性差別撤廃条約と選択議定書』(共著、明石書店、2002)、『女性差別撤廃条約とNGO』(共著、明石書店、2003)、『新版女性の権利ハンドブック―女性差別撤廃条約』(共著、岩波ジュニア新書、2005)、『コンメンタール女性差別撤廃条約』(共著、尚学社、2010)、「リプロダクティブ・ライツとジェンダー」(『法律時報』2006年1月)

現在の関心: 性暴力、買売春、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ。

まえがき

叢書刊行にあたって

法文化学会理事長 真田芳憲

世紀末の現在から20世紀紀全体を振り返ってみますと, 世界が大きく変わりつつある, という印象を強く受けます。20世紀は, 自律的で自己完結的な国家, 主権を絶対視する西欧的国民国家主導の時代でした。列強は, それぞれ政治, 経済の分野で勢力を競い合い, 結局, 自らの生存をかけて二度にわたる大規模な戦争をおこしました。法もまた, 当然のように, それぞれの国で完全に完結した体系とみなされました。学問的にもそれを自明とする解釈学が主流で, 法を歴史的, 文化的に理解しようとする試みですら, その完結した体系に連なる, 一国の法や法文化の歴史に限定されがちでした。

しかし, 21世紀をむかえるいま, 国民国家は国際社会という枠組みに強く拘束され, 諸国家は協調と相互依存への道を歩んでいます。経済や政治のグローバル化とEUの成立は, その動きをさらに強めているようです。しかも, その一方で, ベルリンの壁とソ連の崩壊は, 資本主義と社会主義という冷戦構造を解体し, その対立のなかで抑えこまれていた, 民族紛争や宗教的対立を顕在化させることになりました。国家はもはや, 民族と信仰の上にたって, 内部対立を越える高い価値を体現するものではなくなりました。少なくとも, なくなりつつあります。むしろ, 民族や信仰が国家の枠を越えた広いつながりをもち, 文化や文明という概念に大きな意味を与え始めています。その動きを強く意識して, 「文明の衝突」への危惧の念が語られたのもつい最近のことです。

いま, 19・20世紀型国民国家の完結性と普遍性への信仰は大きく揺るぎ, その信仰と固く結びついた西欧中心主義的な歴史観は反省を迫られています。すべてが国民国家に流れ込むという立場, すべてを国民国家から理解するというこれまでの思考形態では, この現代と未来を捉えることはもはや不可能ではないでしょうか。21世紀を前にして, 私たちは, 政治的な国家という単位や枠組みでは捉え切れない, 民族と宗教, 文明と文化, 地域と世界, そしてそれらの法・文化・経済的な交流と対立に視座を据えた研究に向かわなければなりません。

このことが, 法システムとその認識形態である法観念に関しても適合することはいうまでもありません。国民国家的法システムと法観念を歴史的にも地域的にも相対化し, 過去と現在と未来, 欧米とアジアと日本, イスラム世界やアフリカなどの非欧米地域の法とそのあり方, 諸地域や諸文化, 諸文明の法と法観念の対立と交流を総合的に考察することは, 21世紀の研究にとって不可欠の課題と思われます。この作業は, 対象の広がりからみても, 非常に大掛かりなものとならざるをえません。一人一人の研究者が個別的に試みるだけではとうてい十分ではないでしょう。問題関心を共有する人々が集い, 多角的に議論, 検討し, その成果を発表することが必要です。いま求められているのは, そのための場なのです。

そのような思いから, 法を国家的実定法の狭い枠にとどめず, 法文化という, 地域や集団の歴史的過去や文化構造を含み込む概念を基軸とした研究交流の場として設立されたのが, 法文化学会です。

私たちが目指している法文化研究の基礎視角は, 一言でいえば, 「法のクロノトポス(時空)」的研究です。それは, 各時代・各地域の時空に視点を据えて, 法文化の時間的, 空間的個性に注目するものです。この時空的研究は, 歴史的かつ比較的に行われますが, 言葉や態度の表現や意味, 交流や通信という情報的視点からのアプローチも重視します。また, この研究は, 未来に開かれた現代という時空において展開される, たとえば環境問題や企業法務などの実務的分野が直面している先端的な法文化現象も考察と議論の対象とします。この意味において, 法文化学会は, 学術的であると同時に実務にとっても有益な, 法文化の総合的研究を目的とします。

法文化学会は, この「法文化の総合的研究」の成果を, 叢書『法文化―歴史・比較・情報』によって発信することにしました。これは, 学会誌ですが学術雑誌ではなく, あくまで特定のテーマを主題とする研究書です。学会の共通テーマに関する成果を叢書のなかの一冊として発表していく, というのが本叢書の趣旨です。編者もまた, そのテーマごとに最もそれにふさわしい研究者に委ねることにしました。テーマは学会員から公募します。私たちは, このような形をとることによって, 本叢書が21世紀の幕開けにふさわしいものになることを願い, かつ確信しております。

最後に, 非常に厳しい出版事情のもとにありながら, このような企画に全面的に協力してくださることになった国際書院社長の石井彰氏にお礼を申し上げます。

1999年9月14日

索引

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