国連研究 17 国連: 戦後70年の歩み、課題、展望

日本国際連合学会 編

創設70周年を迎えた国連は新旧さまざまな課題を抱えている。本号では国連の「歩み」を振り返り、成果を確認するとともに、現在の「課題」と今後の「展望」を考える。(2016.6.20)

定価 (本体3,200円 + 税)

ISBN978-4-87791-274-1 C3032 329頁

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目次

著者紹介

〈執筆者一覧〉

内田孟男
中央大学客員研究員
佐藤哲夫
一橋大学教授
大芝亮
青山学院大学教授
植木安弘
上智大学教授
藤井広重
東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程
矢野麻美子
内閣府国際平和協力本部事務局国際平和協力研究員
田辺亮
東海大学非常勤講師
キハラハント愛
英国エセックス大学
和気邦夫
関西学院大学教授
篠田英朗
東京外国語大学教授
二村まどか
法政大学准教授
石塚智佐
東洋大学教授
長谷川祐弘
国連大学客員教授
東大作
上智大学准教授
石塚勝美
共栄大学教授
瀬岡直
近畿大学講師

〈編集委員会〉

本多美樹
早稲田大学准教授
滝澤美佐子
桜美林大学教授
坂根徹
法政大学教授
山本慎一
香川大学准教授
大平剛
北九州市立大学教授
(編集主任)

まえがき

2015年、国連は創設70周年を迎えた。第2次世界大戦による惨禍を繰り返さないという決意のもと、国際社会の平和を願って設立されたが、長い年月の中で光り輝いた時期もあれば、「国連不要論」という批判にさらされた時期もあった。そのような浮き沈みを経験しながらも、70年もの間、存続し得てきたのには、国連に対する人類の期待があると言えるのではないだろうか。

70年の間に人類を取り巻く環境は大きく様変わりした。1970年代以降取り組まれてきた地球環境問題も、問題は複雑化しているし、テロの問題も冷戦期のそれとは趣きが異なっている。国連は絶えず新しい脅威と課題に直面しており、人類は国連を通してその叡智を試されていると言える。

今号の特集セクションでは、「国連: 戦後70年の歩み、課題、展望」をテーマに取り上げた。国連の活動すべてをこの一冊で網羅することは不可能なため、国連の役割を俯瞰するための視点を提供してくれる論稿を集めた。その結果、これまでの国連の歩みを振り返り、国際情勢の変化とともに変容してきた国連の役割を考察し、未解決の課題や新たに生起している問題に国連が今後どう対応できるのかといった提言も含む、未来志向の論稿が揃った。

内田論文「グローバル・ガバナンスにける国連の役割」は、国連の70年の業績と役割を国際機構の原点であるウエストファリア条約に遡り、歴史的視点から展望している。まず、世界情勢の大きな変化とともに国連に求められる役割も変容してきている状況について、国連活動の主要な3つの分野である、国際平和と安全保障、開発と環境、人権、での役割と業績を総括したのち、より広い視野からグローバル・ガバナンスにおける国連の役割と課題そして展望を考察している。グローバル・ガバナンスにおいて国連は、ひとつのアクターにすぎないことから、他のアクターとの協働なしには、めまぐるしく変化する世界秩序を維持・発展させることはできないとする。さらに、このような状況下において、国連が指導権を確保することはとりわけ重要であり、そうでなければ、国連の正統性や実効性はもとより、機構としての存在意義さえ疑問視されかねないだろうと論じている。

佐藤論文「国際連合の70年と国際法秩序─国際社会と国際連合における法の支配の発展」は、変容する国際社会に対応する形で大きく変化し、発展してきた国際法秩序を検討する。まず、国連が国際法秩序の変化と発展にどのような影響を与えてきたのか、また逆に、国連が国際法秩序の変化と発展にどのような影響を受けてきたのかについて整理することによって、国際法の観点から国連の70年の歩みを評価している。国連の影響力の増加とともに、国連という組織や活動における法の支配の重要性について分析した論稿である。

大芝論文「戦後70年と日本の国連外交」は日本政治研究者としての視点から独自の問いを設定し、戦後70年の日本の国連外交について論じている。筆者は、日本が国連外交を展開するにあたり最大の関心事を、日本の憲法と自衛隊、自衛隊の国連活動への参加であると想定し、戦後の日本の国連外交について考察している。まず、戦後の連合国による占領期から国連加盟までの日本の外交について概観したのち、冷戦期から現在でも議論が続いている自衛隊の国連平和活動への参加と安保理改革に伴う日本の常任理事国化をめぐる議論と取り組みについて分析し、今後の日本が国際秩序の平和的変更のために担うべき役割について問題提起を行っている。

植木論文「国連事務総長: 選出の歴史と役割の変遷」は、国連事務局の行政長である国連事務総長に焦点を当て、国際政治の変動と共に変遷してきた事務総長の役割と課題について、特に冷戦後の三代の事務総長に注目して考察している。著者の国連職員としての経験に基づき、事務総長の選出過程という、公的にはなかなか明らかにされないテーマを扱いながらも詳細を伝えている。学者のみならず、実務者およびその経験者が学会員であるという本学会の特徴のよく現れた論稿といえよう。

続いて独立論文セクションの紹介に移りたい。独立論文セクションでは、論文4編を掲載した。藤井論文「国連と国際的な刑事裁判所: アフリカ連合による関与の意義、課題及び展望」は、国連が関与してきた国際的な刑事裁判所の設置についての最近の議論を整理するとともに、平和と司法をめぐる課題について問題提起している。その際に、これまで国連が主導してきたハイブリッド刑事法廷の設置を、アフリカではアフリカ連合が主導しようとする傾向が見られることに注目して、国連とAUが関与する国際的な刑事裁判所の設置をめぐる議論に焦点をあてている。「平和構築における「適切な居住の権利」保障の役割─国連PKOの可能性─」と題する矢野論文は、国連PKOが居住権保障に取り組んだ数少ない先例となる東ティモールとコソボの例を検討した上で、政策提言を試みた。「国連PKOへの人的資源の提供に関する考察─1985-1995年と1996年─2008年の比較」と題する田辺論文では、国際規範とりわけ民主主義,人権・人道規範,市場経済・自由貿易に関する規範の受容と人的資源の提供との関係性を計量分析の手法を用いて分析た。キハラハント論文“Why does the immunity afforded to UN personnel not appropriately reflect the needs of the Organization?: the case of the UN police"( 邦題「国連職員・専門家の特権免除の進化の過程と特権免除の妥当性との関係性についての考察: 国連警察を例に」)は、国連PKOの警察要員とくに武装警察部隊の特権免除をとりあげた論稿で、国連職員や専門家が多様化する中で、特権免除の範囲が明確にされていない現状を事例をもとに明らかにする。3編の論文は、すべて国連PKOに関わる課題を扱っているが、分析視覚は個々に異なり先行研究も少ない分野であり貴重な研究である。本セクションを国連PKOについての研究の最前線として読むこともできるだろう。

政策レビューのセクションでは、UNICEF・UNDP・UNFPAで活躍された和気会員による“Gender Mainstreaming and the United Nations' Reform since 1990s"という論文を掲載した。1990年代以降、国連及び付属機関でジェンダー主流化が、国連改革の中でどのように進められてきたかについて、北京の第4回世界女性会議やカイロの人口開発国際会議、UNDG(国連開発グループ)、MDGs(ミレニアム開発目標)、UN Women(国連女性)、SDGs(持続可能な開発目標)などの重要な取組みや関連研究を参照しつつ課題も含めて論じられている。

書評セクションでは、3本の書評を掲載した。まず、Daisaku Higashi, Challenges of Constructing Legitimacy in Peacebuildingについては、平和構築分野で多数の著作を有する篠田会員が、『平和構築における正統性構築の挑戦』という邦題を付け、平和構築と正統性の関係を解説しながら紹介をおこなっている。次に、セバレンジ・ジョセフ著(米川正子訳)『ルワンダ・ジェノサイド生存者の証言─憎しみから赦しと和解へ─』は、ルワンダにおけるジェノサイド生存者の自叙伝であり、翻訳書であるが、移行期正義の問題に造詣の深い二村会員が、紛争分析、平和構築、移行期正義研究といった学術的見地から本書の意義を解説している。最後に、東壽太郎・松田幹夫編著『国際社会における法と裁判』は、国際裁判の研究を専門とする石塚会員が、国際法を専門としない読者に対しても理解しやすいよう、本書の読み進め方を示して紹介をおこなっている。

国連は万能ではない。ましてや国連という組織が独自に意思決定をして動いているわけでもない。国連はあくまでもフォーラムであり、加盟国が討議し意思決定していく場である。加盟国が増えたことによって、自ずとその動きは緩慢にならざるを得なくなった。意思決定手続きにおける「民主的正統性」を維持しようとすれば迅速な問題解決が困難となり、「機能的正統性」が損なわれることになる。国連はこれら二つの正統性を維持しなければならない宿命を負っており、それは至難の業であると言える。

ただし、国連は柔軟性という一面も持ち合わせている。PKOがそうであったように、時代状況に合わせて新たな取り組みを展開してきた。また、冷戦終結直後に見られたPKOの失敗を教訓として改革も行ってきた。活動レベルだけでなく、組織レベルでも改革が行われてきた。本部レベルでは、国連開発グループ(UNDG)が、現場レベルではOne UNを掲げて、より効率的かつ効果的な運営が目指されている。事務総長についても、初の女性事務総長を誕生させようとの動きが見られる。政治的な思惑が絡み合う事務総長の選出だが、そのようなハードルをもいつかは越えてみせるのが国連なのであり、そのようなエネルギーと躍動感に私たちは期待するのではないだろうか。

2016年3月編集委員会

大平 剛、本多美樹、滝澤美佐子、坂根 徹、山本慎一(執筆順)

あとがき

〈編集後記〉

編集主任として3冊目、委員としては山本さんと同様、6冊の編集に携わってきましたが、いよいよ最後の号となりました。編集作業は11月の原稿受信に始まり、6月の三校まで、およそ半年間を要します。この6年、年度の後半はいつも編集作業に明け暮れていました。それから解放されることの安堵感と少しの寂しさがあります。論文を執筆して下さった方々には、査読者からのコメントだけでなく、委員会の担当者からもコメントを入れさせていただき、細かなところまで加筆修正をお願いしました。短い期間での加筆修正など、無理を申しましたが、おかげさまで質の高いものに仕上がっているのではないかと思っております。会員の皆さまのご協力に、改めまして感謝申し上げます。

この3年間、私を支えてくださった坂根徹さん、滝澤美佐子さん、本多美樹さん、山本慎一さんにこの場をお借りしてお礼申し上げます。有り難うございました。そして、最後になりますが、国際書院の石井様には、入稿から刊行までが短いなか、いつも無理をきいていただきました。有り難うございました。これからもどうぞ宜しくお願い致します。

(大平 剛 北九州市立大学)

今号では大平編集主任と共に特集セクションを担当しました。執筆者の先生方の御論考から多くを学ばせていただいたことに感謝いたします。特集テーマ「国連:戦後70年の歩み、課題、展望」にふさわしく、これまでの国連の役割と活動、業績についてより長期的な視点から丁寧に分析した論稿が揃いました。今後も変容し続ける国際情勢に対応していくために、国連はいかに進化・深化していくべきなのかといった課題についても多くの示唆が得られました。

(本多美樹 早稲田大学)

第17号では独立論文セクションを担当させていただきました。編集主任はじめ委員会の皆さんのご教示、会員はじめ多くの先生方に快くご協力いただき、無事刊行の運びになり感謝しています。本号では独立論文を多数掲載できました。投稿はディシプリンもそれぞれ異なり、国連研究の広がりと可能性、若い研究者の皆様の勢いを感じとりました。今後も投稿論文が多数集まるよう願っています。

(滝澤美佐子 桜美林大学)

今号では政策レビューのセクションを担当しました。本セクションは近年、他のセクションと比べて応募数や掲載数が少ない傾向がありますので、実務家の会員の方々の積極的なご応募・ご寄稿をお願いします。今期全体を通して、自身の編集委員としての役目を遂行する上でご協力を頂いたりお世話になった皆様に御礼申し上げます。そして、『国連研究』の今後の益々の発展を祈念しています。

(坂根 徹 法政大学)

今号では、書評セクションを担当しました。近年、論文投稿数が増えていることもあり、書評の掲載本数が3本にとどまりましたが、今回取り上げられなかった書籍は、次期編集委員会への申し送り事項とさせていただきます。今号で、二期にわたって担当いたしました編集委員会の仕事も最後になります。この間、各種セクションの業務で多くのことを学ばせていただきました。お二人の編集主任をはじめ、委員の皆さま、そして会員の皆さまに、心から感謝と御礼を申し上げます。

(山本慎一 香川大学)

株式会社 国際書院
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