法文化(歴史・比較・情報)叢書 14 再帰する法文化

岩谷十郎 編

古来より地域や国境を越えて伝播してゆく「普遍」としての法。その一方で、国家や社会をその文化的価値において統合する「固有」としての法。双方の対立と親和を通して紡がれる法のアイデンティティーの「再帰的」性格を深く掘り下げる。(2016.12.10)

定価 (本体3,600円 + 税)

ISBN978-4-87791-279-6 C3032 215頁

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目次

著者紹介

[編者・執筆者一覧(掲載順、*は編者)]

岩谷十郎(いわたに・じゅうろう)*
1961年生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学法学部教授(日本法制史・法文化論専攻)。
主な業績: 『法と正義のイコノロジー』(共編著: 慶應義塾大学出版会、1997年)、『法社会史』(共著: 山川出版社、2001年)、『明治日本の法解釈と法律家』(慶應義塾大学法学研究会、2012年)、『法典とは何か』(共編著: 慶應義塾大学出版会、2014年)ほか。
現在の関心: 日本近代の法制史・法社会史・法学教育史・法学史に関わる諸問題。
周圓(しゅう・えん)
1981年生まれ。一橋大学大学院法学研究科博士後期課程修了。博士(法学)。東洋大学法学部法律学科講師(法思想史・西洋法制史専攻)。
主な業績: 「丁韙良『万国公法』の翻訳手法――漢訳『万国公法』1巻を素材として」『一橋法学』10巻2号(2011年)、「アルベリコ・ジェンティーリの正戦論――『戦争法論』1巻における「動力因」と「質料因」を中心に」『一橋法学』11巻1号(2012年)、「アルベリコ・ジェンティーリの正戦論――『戦争法論』2巻における「形相因」を中心に」『一橋法学』12巻3号(2013年)、「アルベリコ・ジェンティーリの正戦論――『戦争法論』3巻における「目的因」を中心に」『一橋法学』15巻1号(2016年)ほか。
現在の関心: 近世国際法史、正戦論、東アジアにおける国際法の受容など。
西田真之(にしだ・まさゆき)
1984年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科総合法政専攻博士課程単位取得退学。博士(法学)。明治学院大学法学部専任講師(東アジア近代法史専攻)。
主な業績: 「近代中国における妾の法的諸問題をめぐる考察」『東洋文化研究所紀要』166册(2014年)、「法文及びディカー裁判所の判決から見た近代タイにおける妾の法的諸問題をめぐる考察」『東洋文化研究』17号(2015年)、「法史学から見た東アジア法系の枠組みについて――一夫一婦容妾制の成立過程をめぐって」『法律科学研究所年報』32号(2016年)ほか。
現在の関心: 東アジアにおける近代法継受過程の比較研究など。
中野雅紀(なかの・まさのり)
1963年生まれ。京都大学大学院法学研究科法政理論専攻公法専攻後期博士課程単位取得。茨城大学教育学部部准教授(法律学)。
主な業績: 「人権の基礎付け、類型および審査基準」『公法研究』72号(2010年)、「基本権構成要件における手続的パースペクティブと実体的パースペクティブの交錯」ドイツ憲法判例研究会編『講座憲法の規範力(2)憲法の規範力と憲法裁判』(信山社、2013年)、「わが国における「選挙権論」の規範主義的貧困は克服されたのか?」『法学新報』121巻5・6号(2014年)ほか。
現在の関心: ドイツの基本権論、基本価値、討議理論など。
児玉圭司(こだま・けいじ)
1977年生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学。舞鶴工業高等専門学校人文科学部門准教授(日本近代法史専攻)。
主な業績: 「明治前期の処遇にみる国事犯」堅田剛編『加害/被害』(国際書院、2013年)、「明治前期の監獄における規律の導入と展開」『法制史研究』64号(2015年)ほか。
現在の関心: 明治期における監獄制度の形成過程、明治・大正期における監獄学(刑事政策学)の継受・確立過程など。
坂井大輔(さかい・だいすけ)
1984年生まれ。一橋大学大学院法学研究科博士後期課程(日本法制史専攻)。
主な業績: 「穂積八束の『公法学』(1)(2・完)」『一橋法学』12巻1~2号(2013年)、「穂積八束とルドルフ・ゾーム」『一橋法学』15巻1号(2016年)、「平野義太郎――マルクス主義と大アジア主義の径庭」小野博司・出口雄一・松本尚子編『戦時体制と法学者 1931~1952』(国際書院、2016年)ほか。
現在の関心: 戦前期日本の法学史・法思想史。
出口雄一(でぐち・ゆういち)
1972年生まれ。慶応義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学。桐蔭横浜大学法学部教授(日本近現代法史専攻)。
主な業績: 「戦時・戦後初期の日本の法学についての覚書(1)(2・完)――「戦時法」研究の前提として」『桐蔭法学』19巻2号、20巻1号(2013年)、「六法的思考――法学部教育の歴史から」桐蔭法学研究会編『法の基層と展開――法学部教育の可能性』(信山社、2014年)、『戦時体制と法学者 1931~1952』(共編著: 国際書院、2016年)ほか。
現在の関心: 戦時体制・占領管理体制下の法と法学についての実証分析、戦後体制の法的形成過程など。
高橋裕(たかはし・ひろし)
1969年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。神戸大学大学院法学研究科教授(法社会学専攻)。
主な業績: 「司法改革におけるADRの位置」『法と政治』51巻1号(2000年)、「消費者信用と裁判所利用」林信夫・佐藤岩夫編『法の生成と民法の体系』(創文社、2006年)、『エコノリーガル・スタディーズのすすめ』(共編著: 有斐閣、2014年)、「戦後日本における法解釈学と法社会学――川島武宜と来栖三郎における事実と法」『法と社会研究』1号(2015年)ほか。
現在の関心: ADRの機能を中心とした紛争過程論、法律家論、法社会学史など。

まえがき

叢書刊行にあたって

法文化学会理事長 真田芳憲

世紀末の現在から20世紀紀全体を振り返ってみますと、世界が大きく変わりつつある、という印象を強く受けます。20世紀は、自律的で自己完結的な国家、主権を絶対視する西欧的国民国家主導の時代でした。列強は、それぞれ政治、経済の分野で勢力を競い合い、結局、自らの生存をかけて二度にわたる大規模な戦争をおこしました。法もまた、当然のように、それぞれの国で完全に完結した体系とみなされました。学問的にもそれを自明とする解釈学が主流で、法を歴史的、文化的に理解しようとする試みですら、その完結した体系に連なる、一国の法や法文化の歴史に限定されがちでした。

しかし、21世紀をむかえるいま、国民国家は国際社会という枠組みに強く拘束され、諸国家は協調と相互依存への道を歩んでいます。経済や政治のグローバル化とEUの成立は、その動きをさらに強めているようです。しかも、その一方で、ベルリンの壁とソ連の崩壊は、資本主義と社会主義という冷戦構造を解体し、その対立のなかで抑えこまれていた、民族紛争や宗教的対立を顕在化させることになりました。国家はもはや、民族と信仰の上にたって、内部対立を越える高い価値を体現するものではなくなりました。少なくとも、なくなりつつあります。むしろ、民族や信仰が国家の枠を越えた広いつながりをもち、文化や文明という概念に大きな意味を与え始めています。その動きを強く意識して、「文明の衝突」への危惧の念が語られたのもつい最近のことです。

いま、19・20世紀型国民国家の完結性と普遍性への信仰は大きく揺るぎ、その信仰と固く結びついた西欧中心主義的な歴史観は反省を迫られています。すべてが国民国家に流れ込むという立場、すべてを国民国家から理解するというこれまでの思考形態では、この現代と未来を捉えることはもはや不可能ではないでしょうか。21世紀を前にして、私たちは、政治的な国家という単位や枠組みでは捉え切れない、民族と宗教、文明と文化、地域と世界、そしてそれらの法・文化・経済的な交流と対立に視座を据えた研究に向かわなければなりません。

このことが、法システムとその認識形態である法観念に関しても適合することはいうまでもありません。国民国家的法システムと法観念を歴史的にも地域的にも相対化し、過去と現在と未来、欧米とアジアと日本、イスラム世界やアフリカなどの非欧米地域の法とそのあり方、諸地域や諸文化、諸文明の法と法観念の対立と交流を総合的に考察することは、21世紀の研究にとって不可欠の課題と思われます。この作業は、対象の広がりからみても、非常に大掛かりなものとならざるをえません。一人一人の研究者が個別的に試みるだけではとうてい十分ではないでしょう。問題関心を共有する人々が集い、多角的に議論、検討し、その成果を発表することが必要です。いま求められているのは、そのための場なのです。

そのような思いから、法を国家的実定法の狭い枠にとどめず、法文化という、地域や集団の歴史的過去や文化構造を含み込む概念を基軸とした研究交流の場として設立されたのが、法文化学会です。

私たちが目指している法文化研究の基礎視角は、一言でいえば、「法のクロノトポス(時空)」的研究です。それは、各時代・各地域の時空に視点を据えて、法文化の時間的、空間的個性に注目するものです。この時空的研究は、歴史的かつ比較的に行われますが、言葉や態度の表現や意味、交流や通信という情報的視点からのアプローチも重視します。また、この研究は、未来に開かれた現代という時空において展開される、たとえば環境問題や企業法務などの実務的分野が直面している先端的な法文化現象も考察と議論の対象とします。この意味において、法文化学会は、学術的であると同時に実務にとっても有益な、法文化の総合的研究を目的とします。

法文化学会は、この「法文化の総合的研究」の成果を、叢書『法文化―歴史・比較・情報』によって発信することにしました。これは、学会誌ですが学術雑誌ではなく、あくまで特定のテーマを主題とする研究書です。学会の共通テーマに関する成果を叢書のなかの一冊として発表していく、というのが本叢書の趣旨です。編者もまた、そのテーマごとに最もそれにふさわしい研究者に委ねることにしました。テーマは学会員から公募します。私たちは、このような形をとることによって、本叢書が21世紀の幕開けにふさわしいものになることを願い、かつ確信しております。

最後に、非常に厳しい出版事情のもとにありながら、このような企画に全面的に協力してくださることになった国際書院社長の石井彰氏にお礼を申し上げます。

1999年9月14日

索引

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